チューリップ(仮)

ガラにもなくこんなことをはじめてる

「明太釜玉うどんの並ひとつ」

私がそういうとお兄さんは「生たまご?温泉たまご?」ときいてきた。私は「おんたまで」と答えた。お兄さんは「おんたまで」と私の言葉を繰り返した。

ただそれだけのことだったのだけど、そのときのお兄さんの笑顔が素敵で、ほんとうにとても素敵で、今思えばその瞬間に明太釜玉うどんの並(温泉たまご)がおいしいことは確定したんだと思う。

ハイになっていた私は食べきれないだろうなとうすうす感じながらも、まぁその時は苦しくなる前に残せばいいやと軽い気持ちで、いつもは食べないイカ天もトレーに載せた。

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ときどき今日のように無性に丸亀製麺の明太釜玉うどんの並(温泉たまご)が食べたくなることがある。例えば3年お世話になった現場で最後の夜勤を終え、開放感とけだるさと感謝と少しの寂しさでハイになっているときなど。そんなときはムリしてイカ天も頼み、空いている店内で1人の時間を楽しむのだ。

11:40。例によって私は丸亀製麺のカウンターテーブルに座り、霧吹きで吹いたように降る雨のことについて考えながら、大橋トリオのcherry pieをききながら、スペシャルにおいしい明太釜玉うどんの並(温泉たまご)とイカ天を口に運ぶ。

 

恋と愛のちがい

同居人にはいつも迷惑ばっかりかけてきた。今もそうだ。私は自分勝手なことばっかりしている。

同居人は、あいつは、面倒くさがりだけど、電話したいなってときには電話してくれた。短気だけど、待っててほしいなってときには本当にずっと待っててくれた。出かけるのはきらいだけど誕生日は必ず予定を空けててくれたし、起こされるとキレるけど怖い夢を見たときは抱きしめてくれたし、口はわるいけど嘘はつかなかった。

真剣に向き合ってくれてた。今もそうだ。いつでも私のことを受け止めてくれる。

 

愛は行動なんだって。

色々あると思うけど、ついさっきすれ違ったギャルのお姉さんがそう言ってて、なんか自分的にはそれが今までで一番しっくりきた。

あいつが教えてくれた。

あいつは帰る場所だ。

私は自分勝手でよくばりだけど、あいつのためなら全部捨てたっていい。

2018/08/09 5:48 夢の話

私たちは狭い廊下に並んでいた。

左側には壁、右側にはいくつかの部屋があって、時折数十人の若い兵隊が出入りしていた。いや、正確には「兵隊あるいは兵隊だったもの」というべきか。その部屋では目を背けたくなるような方法で粛清が行われていたから。

私たちは「兵隊だったもの」が部屋から出てくるのを待っていた。やることは決まっている。粛清の済んだ部屋を綺麗に片すのだ。

私は待っている間、さっき部屋に入っていった一人の兵隊を思い出していた。彼もこれまでの兵隊と同じように若く、健康的な雰囲気があった。目があって、少しだけ視線が引っ張られた。何か言われたような気がした。誰も気づかないよう、ほんの少しだけ唇を動かして。

彼はなんと言ったのだろう。あるいは何も言わなかったのかもしれない。

粛清はすぐに終わった。部屋に入る。首のない体が部屋の中心に向かって円形に並んで座っている。首はさっき兵隊を引率していた人たちが持って出ていった。私たちはいつものように機械的に、決められた作業をこなすだけだ。

 

一日の作業が終わったあと、私たちは控え室のような場所へ通された。部屋の中心に向かって円形に並んで座る。もうへとへとだった。壁にもたれかかる人や床に突っ伏する人もいた。私たちを引率してきた女性が無表情で何か言ったがあまり覚えていない。

「疲れたでしょう」

「あなたたちは全て見ているから」

「腰や膝を痛める人もいます」

「着物を二重に着るのです」

「少し休みなさい」

「頼みます」

記憶が混沌としている。

 

私たちは手元にあるヘルメットを被るように命じられた。そのヘルメットは黒くて大きく、頭のてっぺんから何かのコードがでていた。私たちは何も言われていないが、これから何が起こるのかわかった。

「絶対痛いよー!」

「こわい」

「やだぁ」

不思議と重苦しい雰囲気はなかった。みんな口々に不満の言葉を言い合ったが、それはまるで想う人を言えと言われて嫌がる少女のようだった。

私も同じように不満を言った。

これを被りたくなかった。

しかし被らなければいけないのだろう。

かっこいいひと

誇りを持って努力してるマニアックなひとって、なんかかっこいい。どんなにくだらないことでもそのひとが真剣に向き合っているのなら、それがたとえ世間的に認められないことだったとしても私はできるかぎり否定したくないし、場合によっては応援したいとさえ思うこともある。

例えばカンニングの下ごしらえに余念のなかった高校時代のクラスメイト。7年間フルーツしか食べていない男の人。学校の手洗い場をキャンバスに、残った絵の具で絵を描いていた弟。

それに今日行った美容院の美容師さん。

すごくマニアックなひとだった。髪について語り始めるととまらなくなるあたり、髪に人一倍興味があって熱心に勉強しているんだなということがひしひしと伝わってきた。こんなに純粋に好奇心をむき出して会話を楽しんだのは久しぶりだった。

会話以外にも驚いたことがある。彼の手の感触だ。ドライヤーで髪を乾かしてもらうとき、しばしば肌に櫛があたる感触があったのだけど、それは実は櫛ではなく彼の手の感触だったのだ。

彼の手はまるで日本一の職人が唯一無二の技術で作り上げた木製の櫛のようだった。その櫛は上質な油が染み込ませてあるので、ひと梳かしするだけで髪はおどろくほど理想的に変化する。職人は上質な木材を上質な技術で加工しているので、肌ざわりもとい髪ざわりも嫌味がなく心地がいい。あの感触はまさに人の髪を梳かすために存在する手だった。すばらしいことだ。

 

この出来事で気づいたことがある。私がかっこいいと思うひとには共通点が2つあるのだ。ひとつは初対面で仕事は何だの歳はいくつだのそんな野暮でつまらないことをわざわざ聞いたりしないこと、もうひとつは例えば今日の彼のように手の感触や歩き方なんかが少し変わっていること。そんな人がまだまだたくさんいるのだと思うと、私は筆舌に尽くしがたい気持ちでどうにかなってしまいそうだ。