チューリップ(仮)

ガラにもなくこんなことをはじめてる

かっこいいひと

誇りを持って努力してるマニアックなひとって、なんかかっこいい。どんなにくだらないことでもそのひとが真剣に向き合っているのなら、それがたとえ世間的に認められないことだったとしても私はできるかぎり否定したくないし、場合によっては応援したいとさえ思うこともある。

例えばカンニングの下ごしらえに余念のなかった高校時代のクラスメイト。7年間フルーツしか食べていない男の人。学校の手洗い場をキャンバスに、残った絵の具で絵を描いていた弟。

それに今日行った美容院の美容師さん。

すごくマニアックなひとだった。髪について語り始めるととまらなくなるあたり、髪に人一倍興味があって熱心に勉強しているんだなということがひしひしと伝わってきた。こんなに純粋に好奇心をむき出して会話を楽しんだのは久しぶりだった。

会話以外にも驚いたことがある。彼の手の感触だ。ドライヤーで髪を乾かしてもらうとき、しばしば肌に櫛があたる感触があったのだけど、それは実は櫛ではなく彼の手の感触だったのだ。

彼の手はまるで日本一の職人が唯一無二の技術で作り上げた木製の櫛のようだった。その櫛は上質な油が染み込ませてあるので、ひと梳かしするだけで髪はおどろくほど理想的に変化する。職人は上質な木材を上質な技術で加工しているので、肌ざわりもとい髪ざわりも嫌味がなく心地がいい。あの感触はまさに人の髪を梳かすために存在する手だった。すばらしいことだ。

 

この出来事で気づいたことがある。私がかっこいいと思うひとには共通点が2つあるのだ。ひとつは初対面で仕事は何だの歳はいくつだのそんな野暮でつまらないことをわざわざ聞いたりしないこと、もうひとつは例えば今日の彼のように手の感触や歩き方なんかが少し変わっていること。そんな人がまだまだたくさんいるのだと思うと、私は筆舌に尽くしがたい気持ちでどうにかなってしまいそうだ。